chrysalisysのリハビリミュージック

好きな音楽について語ったり弾いたりします

ピアノについて

僕はピアノのことを大道芸のようなものだと思っています。ピアノに限らず楽器はそういう側面があると思うのですが、特にピアノはメロディと和音とリズムを一人で鳴らすという、まあ常軌を逸した、人間業とは言い難いことをやってのけるという点でまさにチンドン屋的大道芸だな、と思います。

ピアノが他の大道芸と違うのは、多くの人がお稽古事としてピアノを習った経験があること、習っていなくても、子供の頃に鍵盤ハーモニカや教室のオルガンに触ったことがある人は多く、身近な楽器であるということだと思います。

多くの人はジャグリングや腹話術やルービックキューブで絵を作る難しさを知りません。なので僕はこれまでたまたま遭遇したストリートパフォーマンスでは、毎回必ず驚かされました。どうしてあんな動きができるんだろう?失敗しそうだったのに、間一髪成功させた!等。

でもピアノの難易度はなんとなく知っています。だから、ストリートピアノを弾く人が聴衆を驚かせるハードルは、他のパフォーマーに比べると少し高いのかもしれません。ブルグミュラーを弾けるくらいでは人は立ち止まってくれません。でもショパンの幻想即興曲やベートーベンのピアノソナタ、あるいはビッグブリッジの死闘なんかを弾けると、割と「すごいな」と思われて、立ち止まる人も出てくるんじゃないかなと思います。ほとんどの人は幻想即興曲の難易度まではわからないのです。

500円のワインと980円のワインの味の違いは分かっても、3000円のワインと10000円のワインの味の違いは分からないようなものです。980円のワインは普段使いには十分美味しく、3000円のワインは十分ハレの日に相応しい複雑な味わいを持っているのです。そして僕が10000円のワインを自分で買うことは、まあ無いでしょう。

大道芸にネタばらしは禁物です。メソッドやテクニックの優劣など、ほとんどの人にとってはその違いが分からないのであれば、「世の中には素晴らしい演奏がたくさんある」という認識でいた方が人生にとってプラスであることは間違い無いのだから。