今やノスタルジーに浸るためだけにかつて好きだったゲーム音楽ばかり演奏している僕ですが、若かりし頃はなんとオリジナル曲でアルバムを作ったこともあるのです。それがこれ、「ウタカタ」。2011年、28歳のときの作品。
CD-Rに焼いて友達に配っていた。懐かしい。今でも聴いている人はいるかな、いないだろうな。劣化してボロボロになっているかもしれない。でも大丈夫、YouTubeにアップしたから。これなら半永久的にいつでも聴ける。主に聴くのは自分だけだと思うけど。
自分の曲を何回も聴くのは普通なんだろうか?よく分からない。そもそも、作曲をする友達がほとんどいない。だから、この感覚はだれかと共有できるかどうかよく分からないのだけど、自分の曲は不思議と心地良いのだ。なんというか、異物感がない。風邪をひいている時のOS-1のように、スッと体に吸収されていく感じがある。目に入れても痛くないとか、そんな感じだ。
そんな可愛い一人息子(もう兄弟を作ってやることはできないと思う)のこのアルバム、世に出て10年以上誰にもレビューされたことのないこのアルバムを、愛を込めて全曲レビューしてみたい。
1.泡沫
「うたかた」と読む。アルバムタイトルにもなっている曲。この音はパンフルートだったかな?くぐもった菅の音が抽象的なリフレインを繰り返す中で、音が少しずつ層を作って和音となり、ピアノとエレピが最初は恐る恐る、慣れるとじゃれ合うように旋律を形作っていく。なんだか始まりを予感させるこの曲ができたことでアルバムを作ろうと思ったのだった。
2.passage
とても可愛らしい、奇跡のような曲。人はアルバムの2曲目に最も聴いてもらいたい曲を置く、というのが僕の持論なんだけど、もちろん僕もその法則に従ってこのアルバムを作っている。つまり、この曲を一番聴いてもらいたいということだ。特に、中盤のピアノソロ。難しくもなんともないフレーズなんだけど、こんなチャイルディッシュな演奏はもう二度とできないと思う。
3.atomos
このアルバムは、Roland RD-700sxという今も愛用しているキーボードで全ての録音をしている。RD-700sxにはいくつかの内蔵エフェクトがあり、面白いと思ったものを発見してはそれをモチーフに曲を作る、ということをやっていた。ここから続く曲は暫くそんな感じのもので、この曲はベースをスライスするようなエフェクトが面白くて作った曲だ。アルバムの中では珍しくビートを感じさせるが、全体的に不穏な空気(atomosphere)が流れている。
4.wave
波の音をモチーフに作った曲(そのまんま)。異なるエフェクトを掛けた2種類のピアノを弾いており、雨粒のようなエフェクトの音が気持ちいい。
5.7/14
いくつか録音した音をAudacityというソフトで編集して逆回転したり色々いじって作ったよく分からない曲。最後はどうしようもなくなってフェードアウト。
6.白
ウッドベースとストリングスで何かやりたかったと思しき曲。なぜかベースがcorcovadoを弾いているけど、恐らく当時好きでよく聴いていたブラジルのチェリスト、ジャキス・モレレンバウムの影響かもしれない。
7.entropy
拡散したものが偶然生まれたアルペジオに収斂されていくところが気持ちよくてこのタイトルにした。
8.夏
このアルバムで一番エモい曲。歪ませた音が気持ちよくて、「フィネスのエンドレスサマーみたいだ」と思ってこのタイトルを付けた。全然違うけど。終盤にコードを鳴らすのはentropyから癖になって、次の曲まで続いていく。
9.陽の当たらない部屋
引きこもりの部屋で流れる時間のように、停滞したり逆戻りしたりする。とはいえ決して暗くはなく、どちらかといえば安全や癒しを感じさせる。
10.朝
やや破綻しているが、ギリギリ踏みとどまっている感じ。朝は現実の訪れで、甘い夢の終わり。夜更かしには寝不足という代償付き。これを書いている今がすでに夜明け近く、まさに現実を突きつけられる感じだ。